板室温泉 大黒屋にて開催された 『細井美裕 「無いに聞く / Trusted Silence」』において特別展示された作品《轍》の技術協力を致しました。
本展覧会タイトル「無いに聞く」は英題 “Trusted Silence” に由来し、“沈黙に耳を澄ます”という姿勢を示しています。音が供給されるのをただ待つのではなく、音が鳴る直前の緊張や、鳴っていない状態に潜む気配を信頼し受け入れること。細井はその意識を日常の中で保つための“装置”としてサウンドオブジェクトを制作してきました。素材には鈴や時計、金属板など、誰もが知る日常的なものを用いています。なかでも鈴は、鳴っていなくても音を想起させる世界共通の存在であり、匿名性を保ったまま音に実体と場所を与えることができる特別な素材です。細井は「音が立ち上がる寸前の静寂を聞きたい。鳴るのは今ではないことを受け入れ、それ以上を求めず、頭の中で補完する。それで満足できる人になりたい」と語ります。その探求は単なるサウンドアートの枠を超えて「ないこと」や「聞こえないこと」の価値を表現し、「時間認識という錯覚」への問いかけをも内包しています。作品はオブジェクトとして時間を伴いながら、鑑賞者に実時間とは異なる体験を促します。
作品について
下記の条件のもと、福島県大熊町の帰還困難区域内にて、町役場の職員の方々と録音を実施した
– 1人1台レコーダーを持つ
– スタート地点で全員同時に録音を開始する
– 録音を開始した後、各自自由に区域内を探索する
– 決められた時間に再集合し、同時に録音を終了する4つのスピーカーからはそれぞれの録音が同期して再生される。全員が同じ場所にいる状態から徐々に単独行動が始まり、4つの異なる足音が聞こえてくる。録音の後半、偶然、2人は浜で、残りの2人は建設中の防波堤の上で合流する。浜の2人が波打ち際で水に濡れたことを騒いでいるその瞬間、あとの2人は遺骨収集を続ける木村さんの話をしていた。



CREDIT
技術協力:岩田拓朗(arsaffix Inc.)
録音協力:阿部峻久、苧坪祐樹、⼭本曉甫、吉⽥和誠